早苗【1】

2/9
前へ
/227ページ
次へ
 皿を全て空けた智也は立ち上がり、無言でソファに移動した。  食べている途中だが、早苗は立ち上がり、冷蔵庫からソーダを取り出し、コップに入れて、座った智也の前にあるローテーブルに置いた。智也は無言でスマホを操作し続けている。  早苗も急いで食事を終わらせ、後片付けをする。  10分後、後片付けを終えた早苗は、智也の隣りに腰を掛け、小説を読み始めた。智也の様子を伺い、頃合いを見計らって、風呂の湯沸かしボタンを押す。  湯沸かしが完了した音色が流れると、智也は無言で立ち上がり、寝室へ着替えを取りに行き、風呂場へ向かった。  風呂場のドアの閉まる音を聞いて、早苗は大きなため息を付いた。緊張して強張っていた体から力が抜け落ちる。寝室に向かい、隠していた小型のタブレットを取り出した。  [お風呂行った。疲れた。料理の感想もなし。てか、ほぼ無言。笑える]  無表情でXにポストをしたあと、タイムラインを眺める。暗闇の中で立ったまま、息を殺してタブレットを操作している。  数分経つと、浴室のドアの音が聞こえ、急ぎつつも慌てず、落ち着いた動作でタブレットを元の場所にしまった。音を立てないように注意を払いながら寝室を出て、ソファに座り直し、15分前と変わらぬ姿勢で本を読み始める。字を目で追っているが、頭には入らない。目よりも耳の方に意識が向いている。  脱衣場と廊下を隔てるドアの音が聞こえると、早苗はゆっくりと、音を立てないように深呼吸をした。  智也は、スマホを操作しながら歩いてきて、早苗の横に座り、テーブルに乗っているソーダ飲んだ。 「お風呂入ってくるね」  早苗は立ち上がり、着替えを持って風呂場へ向かう。  早苗のスマホは智也の名義で、智也が管理している。智也のものを借りているという形なので、智也は好きに見てもいいし、使ってもいい。早苗は使わせていただいているという立場なので、家庭に必要な需要以外は使うことができない。智也が在宅していれば使う必要はないため、スマホは目のつくところに置いたままだ。  テレビも、智也のお金で買ったものだから、智也が見ないのならばつける必要がない。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加