早苗【2】

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 移動時間は短いため、今すぐに大急ぎで準備をする必要はないが、手土産が必要だった。必ず早苗の手作りのおかずやお菓子を持って行かなければならない。買ったものは論外だった。  嫁の料理の腕を試す、という意図で、結婚当初から必ず持参している。  智也はトイレに起きただけだったようで、早苗に伝えたあと、また自分のベッドへ戻った。  早苗は急いで着替えて退室し、洗面を済ませた。何を作ろう。スーパーはまだ営業していないから、足りないものはコンビニで買うしかない。  昨日言ってくれれば良かったのに。そう不満に思っても、そんな要望を言えるはずがない。週末なのだから、その可能性を考慮しているのが妻の努めだ。  早苗は、実家の味付けとは正反対の、甘めの煮物を作った。母親の味は結婚してからほとんど口にしていない。自分で作るものは、全て義実家の味付けに似せたものにしなければならない。  結婚当初、義実家へ何度も通わされ、義母から厳しく教えられた。智也は、義実家の味に近づけられなかった料理には一切口をつけなかった。  無駄にはできないため、作り直したあと早苗一人で食べきらなければならなかった苦い思い出が何個もある。  煮物だけでは不十分だろう。パウンドケーキの材料があったので、煮物を煮込んでいる間にケーキを作る。焼いている時間に、家事と準備をしよう。  2時間後、智也が起きてきて朝食をとったあと、義実家へと出発した。運転は基本的に智也がする。早苗が運転するのは智也が飲酒をしたときだけで、買い物へ行くときも早苗は使うことはできない。  義実家の敷地内の駐車場に車を停め、智也は先に玄関へ向かう。早苗は急いで降車し、手土産やバッグなどの荷物を手に取った。 「智くん、おかえりなさい!」  義母が満面の笑みで迎える。
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