絵麻【10】

9/13
前へ
/227ページ
次へ
 半年後、絵麻と生田は既に常連となっているファミレスで向かい合って座っていた。  早苗の両親である北島夫妻は、智也の判決を見届けたその足でこちらへ向かっている。  北島夫妻が到着すると、生田は対面に座る絵麻の横へと移動して夫妻のために席を空けた。 「無事に終わりました。進藤さんも生田さんもありがとうございました」  北島夫妻の表情を伺っていた絵麻は、二人の声にも表情にも、安堵と喜びを読み取ってホッとため息をついた。 「3年の執行猶予がついた有罪判決がくだりました」  早苗の父が落ち着いた口調で話を始めた。 「智也君は控訴をしようとしていたようですが、弁護士に諭されたのか諦めることにした様子でした。帰る時に、柏木の奥さん、智也君のお母さんですね、柏木さんにちょっと絡まれましたけど、頑として突っぱねてきました。進藤さんたちの労力を考れば矛を下ろすわけにはいかないと思いましてね。離婚に反対することはないでしょうから、向こうさんの関心は金銭面でしょう。智也君の有罪が決まってしまった今では、いかに金額を減らせるかという部分で、こちらを少しでも苦しませたいのでしょうね。あまり追い詰めるのもどうかと思いますが、今日すぐに聞き入れることだけは避けたいと思いました」  早苗の父はそう言ってカップに口をつけた。 「この度はこんなにもお力を貸していただきまして、本当にありがとうございました」  早苗の母がそう言うと、早苗の父もカップを下ろして一緒に頭をさげた。 「いえいえ、当然のことをしただけです。私もホッとしました」  絵麻は両手を胸の前で振り、大したことはないと態度でも示した。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加