絵麻【10】

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「今回の事故については立証できませんでしたし、モラハラについても証拠不十分でダメでしたが、それでも進藤さんがすぐに警察も呼んでくださったお影で、智也君に報いを受けてもらうことができたのです。ありがとうございました」 「会社も辞職されたようですね」 「そのようです。ですから、慰謝料の支払いには影響があると思いますので、その部分に関しては、今後多少緩める必要はあると考えています」  絵麻と早苗の父との会話に、生田も参加した。 「先輩は友人たちからも距離を置かれて家に籠もりっきりだという話です。辞職したとなると、前科もついてしまったことですし、これまでのような生活は難しいかもしれませんね」  生田は真面目なトーンで話していたが、言葉に嘲笑の含みがあることを隠さなかった。 「早苗にとって何が良かったのかを知ることは難しいですが、親の目から見て、娘が傷ついた分の多少なりともは、相手に仕返してやれたのかなとは思っています」  早苗の父も生田の含みに釣られながら応えた。  何度も頭を下げてから帰っていく北島夫妻の様子を見送った絵麻と生田は、再び向かい合う形に座り直した。 「終わりましたね」  生田は絵麻に笑顔を向けた。 「まだ離婚手続きやら残っていますが、制裁としては十分でしょう」  それに答えて絵麻も微笑みを返す。 「僕の交遊関係上の目の届く範囲へは二度と立ち入れないようにしておきます。智也先輩の性格を考えれば、つるむ仲間や遊び相手の女性がいないことは大きな打撃になりますから。智也先輩は頭の良い方とは言えないので、社会的な居場所や交遊上の後ろ盾がないと、自分だけでは力が足りないんじゃないかな」  生田が愉快そうに吐き捨てると、テーブルに置いたスマホが振動した。  生田は画面を一瞥すると、片方の眉を上げてスマホを耳に当てた。 「お久しぶりです」
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