絵麻【10】

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 絵麻は帰宅してシャワーと夕食を済ませたあと、自室のベッドに横になりスマホを片手にXのメール画面を眺めていた。サカとやり取りをしたメールである。何度も繰り返し読んでいるものだ。  早苗の夫への制裁が終わった今、今度は自分の方へと気持ちを切り替えなければならない。その力を蓄えるべく、早苗の言葉を読み返していた。  ノックがあった。  返事をすると、夫の清澄が顔を覗かせた。 「絵麻、一緒に飲もうよ」  絵麻の顔色を伺うような表情を浮かべつつも、応答は待たずに清澄は入ってきた。  義姉が出産して半月、義姉に会えず暇を持て余しているのか、清澄は絵麻の元へ訪れる頻度を増していた。 「今日は気分がすぐれないの」  絵麻は清澄と目線を合わせず、体調が悪そうに息を吐いた。 「最近いつもだね、大丈夫かい? それじゃあ、背中でもさすろうか?」  清澄の口から聞いたこともない言葉を耳にして、絵麻はぎょっとした。 「いえ、ご心配には及びません。休んでいればすぐに良くなりますから」 「それは良かった。じゃぁ寝る時に側にいようか?僕がいれば看病してあげられるよ」  絵麻は清澄のしつこさに再び驚いた。こんなにも粘る清澄は初めてだった。頭がどうかしたんじゃないだろうか。気持ち悪い。  不審者でも見るような目つきを夫に向けても、清澄には堪えない。 「また明日にでもお会いしましょう。今夜はすぐに眠りますから」  絵麻はなんとか冷静に努めて声を振り絞った。 「そっか。わかったよ。また明日」  それ以上粘れないと判断したのか、清澄は挨拶をすると部屋から出ていった。
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