早苗【11】

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早苗【11】

「サンドリーヌ様、本日は社交界デビューでございますね」  乳母のオデットがくしゃくしゃの笑顔を早苗に向けた。 「このドレスで本当に大丈夫かしら?お母様が選んでくださったものだからドレスは間違いないでしょうけど、私に合っているかは別問題ですもの」  早苗は不安からか、鏡の前で何度もくるくると振り返っては全身を確認している。 「何をおっしゃいます! お母様に似てお美しくなられましたよ。ドレスもサンドリーヌ様のためにあるようではありませんか! ドレスがサンドリーヌ様のお美しさを引き立てていらっしゃるんですよ」  オデットは屈託のない笑顔を向けて早苗を優しく諭した。  サンドリーヌの社交界デビューは、ある伯爵の誕生祝の舞踏会だった。  厳しくマナーを叩き込まれたとはいえ、父に手をひかれて階段を登っていくときも、舞踏会を主催した伯爵の両親に挨拶をしたときも、緊張をしすぎていてマナー通りに礼を尽くせたか、早苗は自信がなかった。  儀礼通りに未婚の男性たちにダンスを申し込まれて3回ほど踊った。  周りを見ると、早苗と同じ年頃のレディの中にも、高揚して上気した顔に満面の笑みをたたえながら次々と踊っているレディもいれば、早苗と同じように緊張して強張った表情で疲れきり、椅子に座り込んでいるレディもいる。  そう言えばこの舞踏会の主役である伯爵はどんな方なのだろう?と、早苗は今頃になって思い出すと、あたりをキョロキョロと見渡した。自分の所作や目の前の出来事で頭がいっぱいになっていて、それまで他のことを考える余裕がなかったのだ。  探そうと意識を集中しなくても、早苗はすぐに主賓である伯爵を見つけることができた。
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