早苗【11】

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 ターンの時にバランスを崩した早苗は、すんでのところで侯爵に支えてもらえたが、すれ違うカップルがこちらに意識を取られたようで、心配そうな表情を浮かべたレディの視線とぶつかった。  ミス・ヴァロワだった。  ダンスを終えて両親と帰り支度をしようと相談していたときに、ミス・ヴァロワが近づいてきた。  早苗は立ち上がって挨拶をする。  挨拶を返し、にっこりと笑顔を見せたミス・ヴァロワは、一息置いてから口を開いた。 「ミス・カンブルラン、今度自宅へお招きさせてください。あなたと少しお話をしてみたいです」  早苗は願ってもないことだと喜び、お礼を伝えた。  父も、同年代の友人を作ることも重要だとにこにこと喜んでいた。  自宅へ向かう馬車の中で、父と母が舞踏会を振り返りながら噂話で盛り上がっている様子を眺めながら、早苗は考えに没頭していた。  早苗とは誰なのだろうか。サンドリーヌ・カンブルランでありながら、なぜか自分のことを早苗だと認識している。  ベルタン侯爵のことも、なぜか生田という男性だと勘違いしてしまった。  そしてミス・ヴァロワ。今夜が初対面なのにも関わらず、何度も夜を語り明かした友人のように思えてならない。  実は自分は豊かな想像力の持ち主で、夢の中でイメージした様々な幻想を、現実の人物と無意識的に結びつけてしまっているのだろうか。  しかし不思議にも、現実に起きたことのような生々しさが感じられた。  疲れ切った早苗は、考えながらうとうとと夢の世界へ入っていった。
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