早苗【2】

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 「早苗さんもようこそ。今日のお料理はなあに?」 早苗の手から手土産をひったくり、中を覗いた。 「あら、煮物?被っちゃったわ~。どうしましょ。味比べね。あらあら、ケーキなの? ひなちゃんもケーキを作ったのよ~。2つとも被るなんて、気が利かない嫁ね!」  義母は、テレビの音量を30にしたような声量でまくしたてた。  玄関を上がり、リビングにいる義父と義妹のひなこ、義妹の1歳になる息子、(そら)に挨拶をした。  座る暇はなく、すぐにキッチンへ行き、お茶の用意をしながらケーキを切り分ける。 「人数分にケーキを切り分けて持ってきてくれたら家のナイフが汚れないのに」  義母の小言に反応を返す余裕もなく、テーブルに並べ、1歳の義甥の相手をする。  空は1歳半になる頃で、よたよたと歩き、そこら中によじ登ろうとしたり、引き出しを開けようとする。ひなこは全く世話をせずケーキを食べ始めているので、早苗が追いかけて面倒を見ている。 「うーん。悪くはないけど、味が薄い」  ひなこが2切れ目を取りながら言う。 「ひなちゃんの作った方が美味しいわ。全然違う! 1歳の子供がいて作るだけでも大変なのに。さすがだわ~!」  義母は、早苗のケーキを先に平らげながら言う。 「ひなって、ケーキとか作ったことあったっけ?」  智也はスマホをいじりながら食べている。 「結婚してからたまに作るのよ。昨日ママ友が来たから作ったの」  ひなこは、早苗の作ったケーキの3切れ目を手にしている。 「ママ友にケーキをご馳走するなんて、ひなちゃん偉いわ~! こんな若さで一児の母ってだけで凄いのに!」 「結婚して、子供を産むのは当然でしょ」  ひなこは口をもぐつかせながら応える。 「ちゃんと最初に跡継ぎを産んでるところも偉いわ~! 完璧よ~」 「そういうのできる人とできない人っているのよね」  早苗が義甥の危険を回避しながら、絵本やおもちゃで機嫌を取っている間、義母と義妹の会話ははずみ、テーブル上のケーキは消えていった。
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