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清澄はいつも通り自宅に帰ってきていなかったため、夫婦は別々に義実家へと向かうことになった。影谷の運転する車で到着した絵麻は、書類の入ったバッグを重そうに携えて玄関を入った。
義両親の招きを受けてダイニングルームへ入ると、部屋の一角にベビーベッドが置いてあり、その周りに招かれた客たちが集まっていた。
輪の中心には、世話で大変なのか少しやつれてはいたが、相変わらず美しい顔に幸福そうな笑顔を浮かべた義姉の姿があった。腕の中にはあと半月で三ヶ月になる息子を抱いている。
「おめでとうございます」
絵麻は義姉と、輪から少し離れた場所に佇んでいる健一に向けてお祝いの言葉を述べた。
「あら、絵麻さん。ごきげんよう。どうぞ、息子を抱っこしてあげてください」
義姉は絵麻に、これまで一度も向けたことのない心からの笑顔を向けて腕の中の息子を絵麻の方へ預けた。
おそるおそる抱きとめた赤ちゃんは温かく、微かにミルクの匂いがした。おとなしく、ジッと絵麻の顔を見ている。
「清司くんですよね、可愛いですね。目元がお父さん似かな?」
「そうかしら? ママ似じゃないかしら?」
姉弟そっくりな目元をした清香が、絵麻を睨みつけた。
腕の中の赤ん坊がぐずりだしたので、清香はあやしながら息子を受け取ると、側で待機していた高木に手渡した。
「食事にいたしましょう」
義母が客人に声をかけると、客人たちはベビーベッドからテーブルの方へぞろぞろと移動した。
席についても泣き声は止まなかったため、高木は赤ん坊を抱っこしたままダイニングルームから退室した。
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