絵麻【11】

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「毎晩泣いて大変なんです。お披露目ももっと早い時期にしたかったのですが、毎日戦場のような有り様で、とてもじゃないですが人前に立てるような状態ではありませんでしたの」  清香はそう言うと、疲労を滲ませながらも、それが一層引き立てていると言わんばかりに美しく微笑んだ。 「うちの絵麻も大変でしたのよ。昼も夜も関係なく泣いてばかりいて。主人も忙しい身ですから、一人でお世話をして大変でした」  絵麻の母が話題を拾った。それに続いて他の客人たちも応えて口々に言う。 「その点まだ健一さんはお若いから安心ね」 「健一くんも嬉しいだろう。こんな美しい奥様と、可愛らしい息子くんと」  健一は自分の話題が出ていても、答えることなくニコニコと笑顔をたたえながら食事をしているだけだった。訝しんだ清香は健一を睨みつけるが、健一は清香を見ていなかった。  食事が済むと、コーヒーと紅茶がそれぞれのオーダーによって配られた。  絵麻は機会を伺うと立ち上がり、全員を見渡して声を上げた。 「皆様に聞いていただきたいことがあります」 「おいおい、立ち上がらなくても話せるだろう」  笑い声を交えながら絵麻の父が制す。 「お父様、それとお母様、不束かな娘をお許しください」 「どうしたの?」  絵麻の真剣な表情に怯んだ母は目を丸くした。 「離婚しようと思います」  絵麻がそう言った瞬間、場の空気が数秒間凍りついた。
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