絵麻【11】

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 絵麻が広げた書類の束は、数枚のA4用紙がホチキスで止められた冊子で、人数分用意されてあった。  一人ひとりがそれぞれ自分の分を手に取ると、席へ戻って書類を読み始めた。 「どういうことだ……」 「絵麻、これは何? どうして……」  しんと静まり返ったダイニングルームに、両親と義両親のつぶやく声だけが聞こえている。  社長夫妻に配慮をしているのか、重役連中は皆押し黙ったままページをめくっている。  それは、清澄と清香の不貞に関する探偵からの報告書だった。  清澄と清香が二人で会っている時の会話を書き起こした文章が主な部分で、レストラン、カフェ、ホテルのロビーなど、探偵が側へ近づいて内密に録音したものだった。  その中には、共通の別宅の存在や生活の細々としたやり取りから、二人が共に暮らしていると取れる内容がハッキリと提示されていた。  性行為を暗に示唆する内容から、生まれてくる子供がまるで二人の子であるかのような会話まで、生々しいほど具体的に語られていた。  会話内容だけを見れば、新婚夫婦がプライベートな会話をあけっぴろげにしているような印象のものだが、姉弟でする会話とは思えぬ内容だった。  そのうえ、健一を貶めるような内容も多くあり、『使えない男』『面白くも何ともない男』などのストレートな悪口はもちろん、『子供の父親になってもらうためには都合がいい』『あいつと私が子作りしたなんてあり得ない話、よくみんなが信じたものだ』などという、息子の父親として利用しているとも取れる会話もあった。
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