絵麻【11】

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 清澄は冊子を閉じると誰とも視線を合わせないようにして、静かに俯いていた。  清香は最後まで読み終えると、冊子をテーブルに投げつけて大声を出した。 「なによこれ! なんの言いがかり? こんな物を作るなんて、よっぽどお暇なのね? 会社に出られず暇だからって、こんないたずら、よく考えたものね。私と弟の仲に嫉妬なさってるの? それはあなたが無能だからでしょう? 会社へ来てもやることがないのは、あなたが無能なだけでしょうに。私と清澄は仕事上のパートナーとして真面目に働いているだけなのよ? ばっかじゃないの?」 「そうだ。絵麻さん、こんなつまらん悪戯をしても、誰も愉快にはならんよ」  義父が清香の反論にホッとしたのか、後に続いた。 「息子の世話が大変ってお話しいたしましたでしょう?こんな悪意ある悪戯に付き合っている余裕はありませんの。もう下がらせていただいてもよろしいですか?」 「そうよ。清香はもう下がりなさい。絵麻さん、招いてもらった側としてこんな悪戯をするなんて失礼ですよ」  義母は立ち上がった清香の方へ駆け寄り、興奮をなだめようと背中をさすった。 「絵麻さん、あなたを見損ないました。こんな妄想の物語を作れるほどお暇なら、少しはお仕事の勉強をなされるか、弟に見向きしてもらえるようにご自分をお磨きになったらいかが?」  今にも怒りを爆発させようとしながらも、ギリギリのところで冷静になろうと努めて清香は声を震わせた。言い終わると絵麻をさらに強く睨みつけ、くるりと出口の方を向いて歩き出した。 「あ、清香さん。まだ帰らないでください」  それまで押し黙っていた健一が声を上げた。 「なによ?」  健一の声にタガが外れたのか、健一の方へ振り向いて放った清香の声は怒りに満ちていた。 「この離婚届にサインをお願いします」
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