絵麻【11】

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「離婚届!? 何を言っているの? あの嘘を信じたの? あれは絵麻さんが暇つぶしに作った余興よ。それくらいわからないの?」  清香は高い声で怒鳴りつけた。 「違います。息子のDNA検査の結果を見て、僕自身が判断したことです」 「DNA検査!?」  清香は意表を突かれ、声には戸惑いの音色が混じっていた。 「健一くん、どういうことだ?」  義父が健一に問いかける。 「社長、僕は娘さんと婚前交渉をしていません。二人で酒を飲み、記憶を失ったことは一度だけありましたが、それでも何かをしていたらわかるものです。そのあと身籠ったことを告げられて結婚に同意をしましたが、清香さんと僕の間には夫婦らしい会話も、好意的な会話すらも今の今まで一度もありません。二人きりになったことも数えるほどしかないのです」 「そうはおっしゃってもあなた、現に清司が生まれているじゃないですか!」  義母が叫び声をあげた。 「はい。ですから清司が生まれたあと、口内の細胞を採取して、DNA検査をしてみました」 「そんなことを勝手にやって許されるとでも思ってるの? それが法的に認められると思っているの?」  清香の声は悲鳴に近くなっていた。 「ここにその検査結果があります。弁護士には既に渡してありますので、そちらのコピーは進藤社長の方でお預かりください。清香さんは、この離婚届にサインをお願いします」  健一は封筒を義父に、一枚の紙を清香に差し出した。 「あなた、絵麻さんにそそのかされたのね!? 絵麻さんは夫の関心が自分に向かないからって、周りの夫婦も壊してやろうって画策してるのよ!」 「清香さん、あなたは一度も僕の話をまともに聞いてはくれないですね。先程も申し上げたとおり、検査は僕の判断でしたことですし、離婚はその結果を見た上で申し上げているだけです。絵麻さんには一切関係がありません」  ヒステリックな清香に対して、健一の態度は落ち着き払っている。
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