絵麻【11】

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 封筒の中身を確認した義父は椅子に崩れ落ちた。テーブルの上で手から滑り落ちた書類を、横に駆け寄っていた義母が取り上げた。  義母は一読すると目を回し、椅子に倒れかかった。  使用人が駆けつけて家主夫妻を解放している横に、絵麻の母が歩いてきて書類を手に取った。 「やっぱり進藤家と関わっちゃダメって言った私が正解だったわね」  そう小さく呟くと、絵麻の方へ憐れみの眼差しを向けた。 「絵麻、あなたは知ってたの?」 「お母様、健一さんから既にコピーをいただいておりますし、弁護士にも渡してあります」 「そう。よく一人でここまでできたわね。私が思っていた以上にあなたは強い。あなたを誇りに思うわ」  母は絵麻に近づいて、優しく肩に手を置いた。  妻と娘のやり取りを呆然と見つめていた父は、書類を奪い取ると急いで目を走らせた。 「健一くんとの親子関係は1%以下、清澄くんとの親子関係は95%以上……」  目を見開き、書類を持つ手が震えた。父の顔は怒りで真っ赤になっていく。 「進藤くん、今日は帰らせていただく。これからのことは弁護士から連絡を入れさせる」  必死に冷静さを保ってそう言うと、父は書類をテーブルに叩きつけ、ドシドシと音を立てながら退室した。  母もそれに続き、ドアの前で振り返って絵麻の方へ視線を向けた。 「絵麻、今日は帰ってきなさいね」 「承知しました」  絵麻は母に一礼すると、投げ出された書類を手に取って、バッグから取り出して既に持っていた別の紙と共に清澄の前へそっと置いた。 「清澄さん、離婚届にサインをお願いします。記入いただけましたら弁護士に連絡をしてくださるようお願い致します。それでは失礼致します」  清澄の顔を覗き込むようにしてにっこりと微笑むと、静かに後へ下がって周りを見渡した。
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