絵麻【11】

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「皆様、本日はこれまでのようです。大変お見苦しいところをお見せしましたことを深くお詫び致します。申し訳ございません。役員は辞任する意向ですので、その件は改めてご連絡をさせていただきたいと存じます。それでは本日は失礼させていただきます」  にこやかな笑顔をたたえてバカ丁寧にそう言うと、深々とお辞儀をして、ドアの方へ歩き去った。  続いて健一も立ち上がり、呆然と成り行きを見守っている面々を前にして辞去の旨を伝えた。  絵麻が玄関口へ歩いていくと、健一が後を追いかけてきた。 「絵麻さん、ありがとうございました」  絵麻の前で立ち止まり、健一は頭を下げた。 「健一さん、よろしければお送りいたします」 「ありがとうございます。ですが、あの家へ戻る気分ではないので、今日は実家の方へ行こうかなと」 「はい。ですから、ご実家の方へお送りいたします」  驚いた健一に、絵麻はにっこりと微笑んだ。それから健一の側へ横から近づいて、片手を健一の右耳に添えると小声でこう言った。 「朋子さんと打ち上げをする約束なんです。もう居酒屋も予約してあるので、健一さんもお連れしますよ」  驚いて絵麻の方へ振り向いた健一に、ニヤリと笑みを浮かべて片目をつぶって見せた。
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