絵麻【11】

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「おつかれさん! 頑張ったね~、二人共!」  朋子が音頭を取ると三人はビールのジョッキをぶつけあい、冷えたビールを喉に流し込んだ。 「あー、美味い! 最高! このために生きてる!」  一気に半分も飲んだ絵麻を、健一は目を丸くして眺めていた。 「あはは! この人、猫かぶりがめっちゃ上手いお嬢様だから!」  朋子が弟の反応を見てケラケラと笑いながら言う。 「お嬢様なんて幻想なの。あ、おかわり!」  絵麻は追加のビールを注文し、お通しを口に運んだ。 「あの二人の表情、傑作だったね~」  もぐもぐしながら絵麻が言うと、健一は神妙な表情で返す。 「社長ご夫妻はお気の毒でしたけど」 「いいのよ。娘を可愛がり過ぎたからこその結果でしょう? いい大人になればもう親に責任はないなんて言うけど、さすがにそのレベルは超えてるでしょう」 「絵麻さん、よく頑張ったね~! 撮影しておいて欲しかったわー」  朋子が楽しげに言う。 「健一さんもいい仕事してたよ。タイミングばっちり! 思い出すだけで可笑しい!」  絵麻はそう言うと笑い出した。 「何もかも絵麻さんのおかげですよ。探偵を雇ってくださったり、証拠を揃えてくださったり、絵麻さんがいたからできたことです。本当にありがとうございました」  健一がテーブルに両手をついて頭を下げた。 「いやいや、最初から疑ってたから遅いくらいなんだけどね」  絵麻がそう言うと、朋子が割って入る。 「疑っていたとしても、実際に行動に移せるかどうかは別問題だよ。何年も行動できないまま年取って手遅れになる人なんて世の中にたくさんいるんだよ」  そこでビールのおかわりが届き、会話は中断した。
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