絵麻【11】

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「健一さんは実家へ帰られて、そのままこちらへ戻られるんですか?」  絵麻が話題を変えた。 「はい。もう荷物は全部まとめてあります。引越し業者も予約してあるので、立ち会うときに戻るだけで済みます」 「じゃあ会社も?」 「はい。辞表は既に提出してあります。実は上司や同僚には既に事情を伝えておりまして、離婚を切り出す前に社長や役員たちの耳には入らないようにとお願いしておりました。みなさん理解して応援してくださる方たちばかりで、バレないように引き継ぎをすることもできました」  健一はビールに口をつけてから続ける。 「実は昨夜は送迎会だったんです。清香さんにバレないようにする苦労は全くありませんでしたね。自宅に来るなんてことないですから」  そう言うと笑い声をあげた。 「絵麻さんはどうするの?」  朋子の疑問に絵麻は答える。 「うちも自宅にはほとんど帰ってこないし、向こうは別宅があるわけだからそのまま私が住んでいてもいいとは思うんだけど、とりあえず実家に戻って考えようかなって。家を建てる時に設計にかなりこだわったから、ちょっと勿体ない気もするけど」 「どうなることかと思ったけど、大団円だったね。ホントよかった」  朋子が穏やかな笑みをたたえながら宙を仰ぎ見た。  それから酒は進み、三人の盛り上がりは最高潮に達していた。 「この人、突然『目元はお父さん似ですね』とか言い出して大変だったんだから! 吹き出しそうになってさ。真面目な顔してるのマジで大変だった!」  健一は酔いでタガが外れていて、絵麻を指差して大声で笑っている。 「あはは! こんな目の細い一重の父親に似ても似つかないっての」  朋子が返すと、健一が答える。 「そうだよ! 何を言いだした!?って慌てたからね!」
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