絵麻【11】

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 会計を済ませると影谷の運転する車に乗り込んだ。後部座席に三人並んで座り、半分眠りかかっている健一はサイドウィンドウにもたれて目を閉じかけていた。  3分ほど無言のまま車の振動に揺れていた。健一の寝息が聞こえてくると、真ん中に座っている朋子が絵麻の方へ向いて話しかけた。 「絵麻さん、本当にありがとう。あなたがいてくれたお影で、弟を救い出すことができたよ」 「水臭いな。決定打となったのはDNA検査の結果なんだから、健一さん一人でもできたって」 「そういうことじゃなくて、さっきも言ったけど、実際に行動に移せるかどうかが大事なの。健一一人じゃ検査することも、離婚を切り出す勇気も出なかったと思う。私たちがいくら言っても健一は行動に移せなかった。当人じゃない私たちだけで動くわけにもいかなかったし」  朋子はそう言うと両手を膝に乗せ、絵麻を真剣に見据えると 「本当にありがとう。」  と言って深々と頭を下げた。 「うん、いや、こちらこそ、ありがとう」  絵麻はこみ上げてきた涙を悟られないようにして、なんとか言葉を返すと、同じようにして頭を下げた。  真部家の前に停車し、なんとか健一を車からおろして三人は別れた。  絵麻は帰りの車内で一日の出来事を思い返していた。  ようやく成し遂げた達成感と、解放された安堵感。  やりきった自分を褒めてあげたくなった。これまで他人に褒められたいと努力をしてきたが、自分で自分を褒めたいと思ったのはこれが初めてのことだった。  他人に褒められるよりももっと嬉しいかも。  絵麻はそう考えて、車に揺られながら一人微笑んだ。
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