早苗と絵麻

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早苗と絵麻

 絵麻は、早苗の入院している病院の正面入口の脇に立って、スマホを眺めているところだった。  こちらへ向かって走ってくる人影に気がつくと、片手を上げて生田を迎えた。 「すみません、仕事を抜け出すのに少々手間取ってしまいました」  息を切らせた生田が、笑顔を浮かべて絵麻に話しかけた。 「大丈夫ですよ。行きましょう」  絵麻も笑顔を返すと、病院の入り口に向かって歩き出した。  東棟の805号室と書かれた病室の前に立つ。個室だった。ノックをする必要はないため、ドアを開けたときに絵麻は声をかけた。 「早苗さん、入りますよー。失礼します」 「失礼します」  生田も続いて声をかけると、二人とも一礼して入室した。  そこにはたくさんのチューブに繋げられ、胸のあたりだけが呼吸で上下している早苗の姿があった。目は閉じられているため、ただ眠っているだけのように見える。 「早苗さん、ガーベラお好きでしたよね?」  生田は色とりどりのガーベラの花束を早苗の顔の前に掲げて見せる。  絵麻は窓際のテーブルに置かれていた花瓶を手に取ると水道水を入れ、生田から受け取った花束をそこに生けた。  絵麻は花束をきれいに整えながら押し黙っている。生田はベッドの足元に立ったまま早苗を見つめていた。  2分後、絵麻はベッドの左サイドへ歩み寄り、早苗の左手の近くに跪くと口を開いた。 「早苗さん、サカさん、聞こえているかな?」
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