早苗と絵麻

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「あなたは誠実な方だから、既婚のままではハッキリと言葉にできなかった、そう考えるのは僕の願望でしょうか。いえ、あなたが僕をどう思っていようと、僕はあなたのことが好きです。あなたに好きになってもらえるように努力します。僕はあなたを愛しています」  生田の眼差しは真剣なものになっていた。 「早苗さん、あなたの声を聞きたいです。騙していた僕を叱り飛ばしてください。あなたの言葉なら何でも受け入れます。どんな言葉でもいいので、早苗さんの言葉を……」  そう言うと生田も言葉が詰まり、俯いた。 「……ダメですね。カッコ悪いです。ちゃんと言わないと」  自嘲気味にそう呟くと、生田は瞳を潤ませながら顔を上げた。 「早苗さん、僕は待っています。……あなたが、目覚めるまで……」  一筋の涙が溢れる。生田はすぐに早苗の手を握っていない方の手でそれを拭う。早苗に微笑みかけると、早苗の手を持ち上げてそっと口づけをした。  早苗の手を元の場所に戻して生田は立ち上がり、ドアの近くにまで下がった。  窓際に立ったまま生田を目で追っていた絵麻は、再びベッドの左サイドへと近づいて、早苗の横で跪いた。 「サカさん、前にね、サカさんとお話している夢を見たよ。夢の中では会って話せたんだよ」  絵麻も生田に倣って早苗の手を取り、両手で軽く握った。
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