早苗と絵麻

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「サカさんが目覚めるまでの間、また夢の中で話ができたらいいな。そして、夢の中でのことも、お互いの話も、色んな話をしようね」  早苗の手を握りしめたまま、こぼれる涙を拭おうともせず、流れるままに任せていた。  絵麻と生田は無言のまま病院を出て、落ち合ったときのように正面入口の脇で向き直った。 「今日はありがとうございました。またお会いしましょう」  生田が笑顔で軽く頭を下げ、歩き去ろうとした。 「あの、生田さん!」  絵麻は急いで呼び止める。振り向いた生田に向かって言葉を続けた。 「色々と大変お世話になりました。あなたのこと、かなり誤解していましたけど、あの、今はもう、その、ちゃんとした方だと思っています」  絵麻は言葉が見つからず言い淀み、照れ笑いをした。 「はい。誤解されるようなことをしましたから。でも、そうですか。誤解が解けたようで良かったです」  生田の澄んだ笑顔を見て絵麻はホッとした。 「生田さん、またお会いしましょう。またどこかで、お茶でもしながら近況でもお話しましょう」 「ハハッ、いいですね。いつものファミレスで、今度は楽しい話でもしましょう」  そう言うと生田は片手を上げて、笑顔のまま颯爽と去って行った。  絵麻は生田の姿を見送ると、もう一度病院の方へと振り返り、窓を見上げた。  サカさん、また来るからね。  笑顔をたたえたまま、絵麻は病院を後にした。
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