早苗【2】

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 大人五人分の夕食と離乳食を作り終え、テーブルに並べていると、智也が義母に話しかけた。 「ごめん、同級生の沢田が帰ってきてるみたいで、仲間で集まって飲もうって誘われた。今から行ってもいい?」 「あら沢田君? 北海道へ行ってた子ね。帰ってきてるの。それは会いに行ったほうがいいわ。友達は大事よ。終わったら早苗さんが迎えに行くから大丈夫ね」  義母が応えた。 「いや、車で皆を拾って行くから、酔いを冷ましてから帰ることにするわ。早苗だけ泊まらせて欲しいんだけど、いいよね?」 「久しぶりだし、土曜日ですもんね。わかったわ。気をつけて帰るのよ」  義母は残念そうな表情を浮かべながらも、息子のためならばといった口調で元気に言った。 「じゃ、もう時間だから」  智也は部屋着にしていたラフな服装から、小綺麗な格好に着替えていた。髪も普段よりも念入りにセットされていて、無精髭もサッパリと剃られていた。傷がつくといけないからと仕舞いこんでいた、就職祝いで両親からプレゼントされた高価な腕時計も付けている。ほのかに香水の香りを漂わせ、俊敏な動きで玄関から出ていった。  智也がいなくなったことで料理は余ってしまった。タッパに入れ替えラップをつけていると、義甥の空が甘えてきた。義妹はスマホを熱心に操作していて見ていない。義母は風呂へ行っていた。
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