早苗【2】

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 干し終えたあと、常夜灯を消してリビングを出ようとしたときに、サンルームから車のブレーキランプらしき赤い光が投射された。駐車場に車が入ってきたようだ。エンジン音はそのまま、ドアの開く音がした。リビングの入口に立っていた早苗は、静かにリビングのドアを締め、急いでソファの影にしゃがみ込む。  玄関のドアが開く音が聞こえたかと思うと、廊下のきしむ音が洗面所の方へ向かっていった。1分後、玄関へ向かう音が聞こえ、再びドアが閉まった。  早苗のいる場所からはサンルームがよく見えたため、車のドアが開いたときに付いた車内灯のオレンジ色の光も、それによって作られた人影もハッキリと見えた。  運転席に智也、助手席に若い女性がいたようだった。ドアが閉まり車内灯が消えていく刹那、二つの影は互いに近づき合い、最後に繋がった。  早苗の鼓動はしばらく収まらなかった。深夜に目覚め、家事を完了させずに眠りこけてしまったことに焦り、高鳴った鼓動は、無事に完遂し安堵をしようとした瞬間に、突如現れた侵入者によって増幅した。  夫の智也と見知らぬ女性の影が重なった情景が、頭の中で何度も再生され、静まり返った闇夜の中でバクバクと脈打つ鼓動が聞こえるようだった。事態を飲み込めないまま5分ほど呆然としていたが、静かに立ち上がって、キッチンへ向かった。水を飲むと少し落ち着くことができたので、トイレを済ませたあと、あてがわれている部屋へ行き、布団の上で横になった。  眠れず、そのまま朝まで起きていた。  智也は友人たちと飲みに行くと言って出かけた。運転をするから酔いを冷まして帰宅すると言っていた。それなのに、深夜に一度帰ってきて、また出ていった。女性一人だけが一緒だったように見えた。
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