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早苗は寝耳に水だった。結婚したときに、共働きするつもりだった早苗を叱責して専業主婦にさせたのは智也だった。自宅のことを完璧にして欲しい、知らない人と関わる必要はない、やりくりできないなら稼ぐよりも節約しろ、というのが理由だった。
早苗は大学時代から智也と結婚するまでコンビニのアルバイトをしていた。智也と結婚してこちらへ来た後も、当然パートか何かをするつもりだった。
義母の仕事先はお菓子製品の工場である。こちらへ引っ越して来る前から系列の工場で働いていたので、仕事は手慣れているし、会社のことも把握しているため、こちらへ移動してきても持ち前の口の上手さと社交術で、パートのボスとでも言うポジションに収まっているようだった。
一人で自由にできる貴重な日中の時間がパートで失われてしまう。しかも、義母の下で働かなければならなくなるとは……。同居と比較しても劣らないくらい絶望的な展開だった。
早苗が口を挟む隙もなく、否、口を挟む必要もなく、話は進んだ。
早速、明日月曜日に工場長に掛け合ってみるから、履歴書を用意して火曜には面接に来れるようにしておくようにと言われた。
義母が言えば採用は間違いないから、火曜から働けるだろう。制服は支給されるから、スニーカーなどの必要なものを月曜日中に用意しておくようにと。
「お給料をもらう仕事なんだから、片手間に考えちゃいけません。社会経験がないから最初は戸惑うかもしれないけど、私がちゃんと教えてあげますからね。一生懸命やるんですよ。それでも、一番は智くんの妻であること。主婦業をおろそかにしちゃ駄目よ」
「パートだから4時くらいには帰れるだろう?家事もちゃんとするんだぞ」
義母と夫からありがたい声援をいただいた。
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