早苗【2】

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 その後、義実家の掃除をし、昼食の用意を終え、義甥の遊び相手や世話などをこなし、昼寝をさせたあと、ようやく帰宅することになった。  智也は上機嫌だったため、帰りにスーパーへ寄って欲しいと仄めかした時も快く寄ってくれたし、珍しく荷物を持ってもくれた。  スーパーの横に靴屋があったため、智也の方から早苗の仕事用にと、スニーカーを買ってくれもした。自分の革靴も新調したのでそのついでだったとはいえ、早苗に消耗度の低い衣類を買い与えるのは、1年ぶりのことで、とても驚いたのだった。  帰宅して一泊用の荷物を手際よく片付け、夕食の用意をする。智也はテレビを見ながら、スマホをたまに操作していた。夕食を食べながら、テレビを見て笑っている。早苗に話しかけたりもした。機嫌がよく、一緒に風呂に入ろうと言った。  早苗は、テレビと歓談に付き合わされ、家事が進んでいない焦りと、丸2日も見ていないタブレットが気がかりで、全く楽しめなかった。  パートをしなければならないことについて、不安でいっぱいだったし、昨夜の出来事と智也の機嫌の良さが繋がっているような不信感も襲ってくる。  早苗の行動は全て智也に支配されている。家事や世話などの義務で満たされている。休日の過ごした方も、パート先の選択すら、早苗に意見を求めない。  こんな扱いでは、智也が機嫌よくしていても、とてもではないが同じように楽しめない。喜怒哀楽などの感情表現も、智也の期待を伺って表に出しているにすぎない。  あまりにも細々とした部分までコントロールされていて、早苗は自分の意志や本当の感情というものを忘れかけていた。智也のために働いているロボットのようだ。愛しているから側にいるというような想いは、久しく感じることがなかった。  風呂場を出て、急いで家事の残りを片付けていると、智也が朗らかに近づいてきた。 「ちょっとコンビニに行ってくるわ~」  部屋着ではなく、ちょっとした遠出をするような服装だった。例の高い腕時計もしているし、ヘアセットもしている。ちょっとそこまで、という格好ではないから、もしかしたら長時間戻らないかもしれない。 「気をつけてね」  既に玄関近くへ歩いて向かっていたので、慌てて早苗は応えた。
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