早苗【2】

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「疲れたなら、寝ててもいいから」  珍しく優しい言葉をかけてきた。素直に嬉しいというよりも、違和感の方が勝る。  智也が出ていった後、窓からアパートの駐車場を見ると、やはり車で出ていったようだった。コンビニは駐車場もあるが、近いため歩いた方が早い。  昨夜の光景と異様な機嫌の良さがまた繋がり、疑惑が高まった。  しかし、嫉妬よりも安堵感の方が大きかった。風呂場で久しぶりに智也と触れ合ったというのに、喜びもなく、家事とタブレットへの焦燥感でいっぱいだったことも思い出した。  素早く家事を終わらせ、タブレットを用意し、冷えたビールとつまみ菓子も携えて、リビングのソファに深々と座り込んだ。  ビールの缶を開け、喉をならして飲む。2口3口とゴクゴク飲んで、大きく息を吐いた。アルコールが脳内に浸透し、どんよりとして陰鬱だった気持ちが、雨上がりの青空のような爽快感に変わった。  タブレットを操作してXを開く。最近していなかったツイキャスについてリプライがついていたので、簡単な返事をした。メール画面を開くと、EMA522から2通メールが届いていた。  EMA522[そっか、サカさんは最近洋服とか買いに行ってないんだね。服は腐らないから、たくさんありすぎると持て余しちゃうもんね。ミニマリズムもいいじゃない!]  EMA522[休日は旦那さんへのサービスデーなのかな?忙しいなら返事は無理しないでね。こっちはゆるゆるとネット巡回して楽しんでるから]  早苗は智也に連絡先を消されてから、誰かとメールのやり取りを続けるという習慣がなくなっていた。ネットをしていても、誰かと親しくメールを送り合うようなことはしていなかった。  夫以外の人と、日を跨いでのメールのやりとりなど、久しくないことだった。タブレットを開いたときにメールの通知を見るという、この感覚が懐かしい。  返事をどうしようかと考える、他者のために能動的に行動しようとすることに喜びを覚えた。
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