絵麻【2】

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 清澄は頭脳明晰で仕事の手腕は確かだが、初対面の相手を驚かせる独特の性質があった。甘ったれのお坊ちゃん気質が大人になっても抜けきれず、挨拶などの社会的なマナーはもちろん、他者を相手にしているという感覚がなく、思っていることを好き勝手に口に出してしまう。当然ながら誤解を与えてしまうが、悪意はないことがすぐに分かるので、変わっている人だと判断される。 「清澄さんこんばんは。ご機嫌はいかが?お仕事がお忙しいようで何よりですけれども、お身体の方は大事になさって。」 「AIっぽいな、それ。社交辞令の例文みたい」  何が可笑しいのやら、清澄は口元にグーの形をした右手を当て、声を出さずにニヤニヤと笑った。階段を降りきろうとする絵麻に向けて左手を出し、それに応じた絵麻の右手を取った。  会ったのは2週間ぶりだが触れたのは1ヶ月ぶりか。いや、もっとかもしれない。覚えていなかった。  15分後に全員が揃ったのを確認すると、夕食会は和やかに始まった。  絵麻は義両親の隣の席で、清澄と並んで座っている清香とは正反対の位置だったため、関わることがなさそうだと絵麻は安堵した。  食事が済むとコーヒーや紅茶がそれぞれの希望に従って配られた。絵麻はコーヒーに口をつける。  義父が咳払いで皆の注目を引くと立ち上がり、明朗な声を出した。 「今日は皆に報告したいことがある。おめでたいことなんだ。清香が、結婚することになった」  一瞬驚きのため皆の動きが止まったが、すぐに息を吹き返す。 「お~、清香さんが! おめでとう!」 「あら、いつの間にお相手を見つけられたの? おめでたいわ!」  役員の面々や両親たちは、驚きとともにお祝いの言葉を口々に述べた。  歓声と拍手を制して、義父は続ける。
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