早苗【1】

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 EMA522[今日はどうしたの? 声に元気がないね]  ツイキャスを始めた頃から、コメントをしてくれるユーザーだった。 「最近、旦那とほとんど会話ができないんだ~。結婚してもう3年目になるから、倦怠期ってやつかな?」  午前中だからか、リスナーは4人、3人と減っていき、20分経ってEMA522の一人になったので、気が抜けてプライベートなことを漏らしてしまった。  EMA522[私も今年で3年目だよ。同じだね] 「高校の時から付き合ってて、大学で遠距離だったから、全部含めれば9年目なんだけどね。倦怠期なんて通り越してるか!」  乾いた笑い声を出す。  EMA522[もし高2から付き合っているのだとしたら、同い年かも!] 「え!本当!?共通点が2つも!」  EMA522[それに私も旦那とほとんど会話がない。境遇が似てて親近感! 笑]  早苗は驚いた。冗談か嘘かも知れないとは思いつつも、2人きりということもあり、親近感を抱いてコメントをしてくれたことに嬉しさが跳ねた。それも相手はツイキャスを始めた頃から配信を聞いてくれているユーザーだったので、急に距離が縮まったような感覚があった。  EMA522ともっと話をしてみたい。夫以外の人間とまともに会話らしい会話ができず、他人とのやり取りに飢えていた早苗は、今までしようと思ったこともない行動に出た。自分らしからぬ、と冷静に考える自分も居たが、驚きと嬉しさの感情がそれを勝り、背中を押したのだ。  一旦ツイキャスを閉じると、EMA522にダイレクトメールを送った。
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