早苗【1】

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 サカ☆カササギ[突然のメール失礼します。色々共通点があり、直接2人だけでお話してみたいと思って送ってしまいました]  こんなこと、普段の早苗なら絶対にしない。相手がどんな反応を取るのか想像するだけでも怖いし、何より見知らぬ人と会話しなければならない状態に自分が立つと考えるだけで耐えられない。最近では、店員や近所の人と挨拶をすることすら、どもってしまって声が出せないほどなのに。  EMA522[嬉しいです! メールありがとうございます。キャスを始めたときから、話し方や、話題の選択に親しみを感じていて、サカさんとお友達だったらどんなかな?と考えたりもしていました。2人きりだったので思い切ってアプローチしてしまいました。気持ち悪かったらごめんなさい]  堅苦しさがなく、丁寧な返信をもらって安堵した。この人なら大丈夫な気がする。早苗は、自分らしからぬ行動に後悔を感じ始めていたが、返信を読んだあとは、それが満足感に変わっていた。  それから、その日だけでも何通ものメールのやりとりをした。気が合うのか、相手が気が合うように見せているのかはわからない。リテラシーが弱めの早苗は、どこまで踏み込めばいいのか、どこまで個人的な部分を開けばいいのか判断がつかないまま、当たり障りのない会話をした。  主にツイキャスの延長のような内容で、好きな本やテレビ番組、趣味についてなどの日常的な話をした。同い年なこともあり、昔流行ったものや学生時代のあるある話などもして、意外に話題は尽きない。家事の合間に少し途切れることはあっても、半日は空くことなくメールは続いた。  ドアの空く音がした。早苗は焦った。タブレットを持ったままだった。とりあえず、タブレットをポケットにしまう。スマホは充電したまま放置していた。今日は1分も使っていない。図書館へも行っていなかった。 「おかえりなさい」  慌てて玄関へ迎えに出た。 「今日は何してた?」 「今日は、ちょっと体調が悪くて、掃除と料理以外は寝てた」
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