早苗【1】

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「スマホ見せて」 「あ、ちょっと待って。充電しっぱなしだったから。」  智也は、着替えを済ませて、ダイニングテーブルについた。 「今日は飲むわ」 「あ、はい」  早苗は、取ってきたスマホを智也に渡し、急いで冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出し、グラスと一緒にテーブルの上に置いた。 「今日は全然使ってないね。マジで具合い悪いんだ」 「うん、でも、もう大丈夫。一日休んだら回復した」  素早く夕食の用意をして席についた。置かれたそばから智也は食べ始めている。スマホをスタンドに置いて、動画を見ながら食べていた。ビールを飲みながらなのでペースは遅い。当然のように会話はなく、早苗の方が先に食べ終った。  後片付けをしたあと、ダイニングテーブルで読書をし始めた。読んでいても、頭は別のことを考えていた。今日起きたこと。EMA522との出会い、会話。考え始めたらメールに返信をしたい気持ちが強くなってきて、落ち着かなくなった。  智也が先に入浴するから、晩酌の日はいつ湯沸かしのボタンを押せばいいのか、少し悩む。今日は早くお風呂に入って欲しい。EMA522に返信を送りたい。夜の時間はスマホを操作しにくいことを伝えておきたい。考えに没頭していて、智也への意識が散漫だった。呼ばれていたことに気づくのが数秒遅れた。 「おい、聞いてんのか?」  声を荒げていた。 「あ、ごめんなさい。やっぱり、少し、まだ、体調が悪いみたいで。ごめんなさい」 「しらねーよ! ビールなくなってんだけど」 「うん、ごめん」  急いで立ち上がり、冷蔵庫から取り出した缶ビールをテーブルに置いた。 「なくなる前に出しとけよ!」  アルコールが入っているときはいつもよりも怒りっぽくなるとわかっているのに、失敗してしまった。でもギリギリセーフか。怒鳴るまではいってない。
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