何色にも染まらない

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仕事の報酬は、依頼主の言い値で受けている。 しかし、明らかに仕事に見合わない報酬を提示してきた場合、その仕事は受けないことにしている。 相手がその依頼に対してどれほど真剣なのか、本当に仲介して欲しい内容なのか……。 その本気度により、提示する報酬に現実味が出てくる。 本当に成功させたい仕事であれば、そして俺の腕を信じてくれているのであれば、適当な額など提示してこない。 俺は金額が高い、安いなど気にしない。 たとえ安価であったとしても、依頼主にとって支払える額なのか、どれほど苦労して手に入れた金なのか、それが伝われば俺は仕事を受けるようにしている。 以前、1万円で仕事を受けた覚えがある。 それは、簡単な別れ話の仲介だったが、その背景には両親の転勤による転校があった。 相手は夢を追いかけるサッカー部員。 自分のために時間を無駄に割いて欲しくなかったという、依頼主のささやかな優しさだった。 当時中学生だった依頼主。 1万円と言う額は、依頼主には高額だった。 その想いが本気だったと分かったから、俺は仕事をした。 ……その仕事がどうなったのか、それはここでは伏せておこう。
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