何色にも染まらない

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「あぁ。仲介屋は俺だ……が」 話の途中で、思わず俺は言葉を止めてしまった。 入ってきた若い男は、俺の『元職場』の御曹司だったのだ。 相手も俺の存在に気付いたらしい。 「貴方は……なぜこんなところで……?」 俺がこの場所で個人事務所を立ち上げていることに、たいそう驚いたらしい。 少々興奮しているらしく、頬が上気している。 「貴方に頼むなら安心だ! 元……」 「俺は『ただの』仲介屋だ。前職のことは関係ねぇ。」 男が最後まで言い終わらないうちに、俺は言葉を遮るように言った。 「……そうですね。すみませんでした。」 男も、俺の意図に気付いたらしく、会釈をすると俺のデスクの前に立つ。 「そちらのソファーに。」 俺は、デスクのすぐ側にある革張りのソファーを指さし、男も素直に従い、座る。 「煙草は?」 「やめたんです。」 煙草を差し出す俺に申し訳なさそうにそう言ったので、俺は自分の側に灰皿を引き寄せ、煙草に火をつけた。 「それで……ご依頼は?」
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