何色にも染まらない

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「好きな人がいて、その人に自分の想いを伝えたいんです。」 それは、目の前の男の境遇を知る俺にとっては、あまりにも拍子抜けしてしまうような依頼だった。 「……伝えてくれば良いじゃねぇか。」 俺は仲介屋らしからぬ返答を男に返した。 実際のところ、目の前に座るこの男。男気溢れる好青年である。 自分の欲しい物、手に入れたいものは、親の力を借りずに手にしてきたほどの実力の持ち主でもある。 そんな彼が何故、俺の手を借りようとしたのか……。 「私の職場のことも、ちゃんと打ち明けたい。そして、彼女が受け入れてくれるのであれば、私は職場を去ろうと思ってるんです。」 「それはそれは……。」 そこまでの覚悟を持っているとは、と俺は思わず口笛を吹いた。 「邪魔が入ってるってことだな?」 そして、この男が俺の前に現れた理由も、この話で大体察した。 「えぇ。私は今の会社の後継者。『ある重役』が会社を去ったことで、私を担ぎ上げて次の重役になろうとする者が多いんです。余計なことをされる前に、自分の力で彼女に話がしたくて……。」 「そう言うことか。」 俺は納得した。
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