第一章 カエルを愛せる女探し

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第一章 カエルを愛せる女探し

 時計の針は夜中の零時を過ぎた。宮廷にある職務棟で明かりがついているのは、薬師室だけだろう。 「眠い、帰りたい」  私は襲いくる睡魔と必死に戦いながら、まぶたをこじ開け、薬草棚に貼ってあるラベルから目的のものを探す。薬の材料を間違えるわけにはいかない。 「あった、ナナイロソウ」  引き出しを開け、ナナイロソウの葉を一枚、取り出す。それを乳鉢に入れると、また薬草棚に目を向けた。 「次は……乾燥ユキノシズク草、っと……」    上司も同僚も帰ってしまった。私が出す音しか聞こえない、静かな職場。  一ヶ月連続残業、しかも休日返上。  心身はすでに限界を迎えている。動作は鈍く、思考は停止しがち。  それでも、頼まれている薬草調合注文書をあと十枚さばかないと、家には帰れない。 「頑張れ……眠気も疲労も、すべては気のせい。私は眠くない、眠くない。絶対に眠くない……。毎日毎日、深夜二時に帰宅して、化粧を落とさずに寝て、六時半に起きてシャワーを浴びながら化粧を落として、再び化粧をして、八時半に出社しているけれども、眠いはずがない。私は二十二歳。まだ若い。やれる……」  薬草を調合しながら、横になりたい誘惑と必死に戦う。少しでも横になったら、無意識の領域に落ちてしまうこと確実。  ゴリゴリ……。  薬草をすりつぶす音が真夜中に響く。  乳鉢の中で薬草をすりつぶしているのだけれど、乳棒をくるくると回していると、頭の中まで回ってしまいそう。  薬草調合を終えたら、次は袋詰め。それから、使用方法と注意事項が書いてる文書を添付して、受付テーブルに置く。そうすれば明日の朝、依頼主にスムーズに渡すことができる。  仕事はこれで終わりではない。使った薬草を表に記入し、使用した器具を洗って元あった場所に戻す。  ここまでやって、終わり。 「二時には帰れそう。ふふふ、ハハハっ!!」  笑いが込み上げる。楽しいわけじゃないのに。  人というのは、笑うことでつらさをやり過ごそうとする生き物なのかもしれない。  そんなふうに笑いの分析をしていると、夜のしじまに、私が出す音とは違う音が響いた。  ──トントンっ!  遅れて、男性の声。 「すみません。誰かいますか?」 「あ、はい……」  幻聴かと一瞬思ったが、守衛だろうと思い直して、調合室から出る。  薬師室のドアを開けると、宮廷魔道士の制服を着た、190センチはあるであろう長身の男性が暗い廊下に立っていた。  背の高さと、魔道士という神秘的な職業。そして彼の眼光の鋭さに、私は思わず後ずさった。 「あの、なんでしょう……」 「私は宮廷魔道士のユリウス・タラー。あなたは薬師?」 「はい。そうですけれど……」 「良かった。由々しき事態が起こりまして。薬師室の明かりがついているのを見て、藁にもすがる思いでドアを叩いたのですが……いてくれて良かった。いや、良かったというのは気が早いか。宮廷薬師といえども、解決できるわけではないのだから」 「?」
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