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「やっと介助犬訓練士になれたのに! まだ3ヶ月ですよ、3ヶ月!」
3本の指で3ヶ月を表現しながら力説する結実に、女神はふわっと微笑む。
『いぬ を たすけて くれて ありがとう』
その微笑みは絶世の美女。
少し透けた身体と、ウェーブがかかった綺麗な金髪に宝石のような青眼。
そして後光が射す姿は「女神なのだろうな」と思わざるを得ない。
いや、相手が美人でも、私は不当を訴えますよ。
やっとリッキーと仲良くなれたのに。
新聞をテーブルから持ってこれるくらい成長したのに。
まだ冷蔵庫はうまく開けられないけれど。
『おねがい わたし の せかい も すくって』
「え?」
『いぬたち を たすけて』
「犬たち? たすけて? それは、どういう……」
結実は眩しい光に思わず目を閉じる。
次の瞬間、結実は全力で拒否するべきだったと後悔することになった――。
◇
「ルーク、もうこれ以上は」
瘴気漂う森の中、チャーリーは隊長ルークに息苦しさを訴えた。
「やはり瘴気の森が広がっているな」
手元の瘴気測定器はMAXの赤。
隊長である辺境伯ルークは、これ以上進むのは無理だと断念した。
「よし、急いで戻るぞ」
ルークの合図で調査隊は全員急いで引き返す。
「……おかしいな」
来た道を引き返せば瘴気は薄くなっていくはず。
だが、なぜか瘴気測定器は赤色のままだった。
「……ぐっ」
「……うぅ」
苦しそうに首を掴みながら顔を歪ませる隊員たち。
撤退するのが遅かったか!
ルークは胸元から研究中の中和剤を取り出し、地面へ叩きつけた。
「長くは持たない。すぐに倒れた隊員を担いで森の外へ!」
「はい、隊長!」
こんな時、犬がいれば……。
ルークはグッと拳を握った。
犬は女神の遣い。
犬は瘴気を避けてくれる貴重な存在だ。
だがこの国にいた最後の犬は5年前に高齢で亡くなってしまった。
他の犬たちはすべて隣国のレイド国に奪われ、現在この国に犬は1頭もいない。
「隊長、帰り道がわかりません!」
「目印は?」
「それが、目印が見つからなくて」
思ったよりも濃い瘴気の霧のせいで道を間違えたのか。
このままでは全員の命が危ない状況にルークの背中に冷や汗が流れる。
ルークは予備の中和剤を地面へ投げつけると、周りの木に目印がないか自分の目で見て回った。
ロータス国と隣国レイド国の間には『瘴気の森』と呼ばれる大きな森がある。
この森を含む辺境を任されているのがルークだ。
本来なら辺境伯は父が務めるべきだが、長年瘴気に晒された生活をしていたせいで、今では起き上がることさえできなくなってしまった。
父が存命にも関わらず、わずか20歳のルークが辺境伯となったのは極めて異例のこと。
それだけ瘴気は国にとっても厄介なモノだった。
「こっちだ。ここに目印が……」
振り返ったルークは仲間たちの苦しそうな姿に目を見開いた。
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