嫉妬に狂い、吠える夜

10/11
前へ
/41ページ
次へ
彼はまさに、花から花を飛び回る蝶々だ。 俺だけでは飽き足らず、 華やかな笑顔と儚さを抱かせる容姿で 無自覚に周りを虜にしていく。 名前を挙げた伊藤だけではなく、 フロアに彼が現れるとそこにいる男性が数人 浮足立つのをこの目で確かめていた。 いつか、決して遠くない未来に、 きっと彼は俺から離れてしまうだろう。 中身の乏しい、平凡な俺が 魅力的な彼を繋ぎ止めることは 簡単なことではないから。 俺に組み敷かれたまま、 乱れた息を整えている彼を見下ろし、 俺は再び口を開いた。 「ごめんね」 「え」 次の言葉は、怖くて言えなかった。 こんなに愛しているのに、 やっぱり寂しい気持ちは付き纏う。 何があっても離れないと言ってくれたが 俺の本性を知ったら、 きっと彼だって逃げ出してしまう。 もし俺が彼だとしても、そう思う。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加