Episode.9

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鳥が飛び立つ音も、虫の鳴き声も聞こえないくらいとても静かな夜だった。 ハルカが動かしているオールの水を切る音だけが、辺り一面に響く。 「ねえ、ミク。月が映るところまで行ってみようか」 ワクワクした顔のハルカに呆れつつ、私は笑って頷いた。 疲れたら漕ぐのを順番交代して、お互いに水をかけあってふざけて、ボートを揺らしてハルカを驚かせて。そして月まであと少しのところで、二人とも疲れてボートに寝っ転がった。空を見上げる。 星空博士の星座講座が始まって、聞いたことのない星座を次々と指差していく。見える星を全部指差したくらいのところで、ハルカがヨッと体を起こしてボートが少しだけ揺れた。持ってきたリュックをゴソゴソと漁っている音がする。 「ミク、これ。プレゼント」 そんな言葉と共に、顔の前に透明の瓶が差し出された。中には四つ折りになった黄色いメモがいくつか入っている。受け取りながら体を起こした。 「これ、何?」 「いくつか見てみて」 ワクワクした顔のハルカにそう促されて瓶の蓋をキュッと開ける。四つ折りを二つ取り出して膝の上で広げた。 『にくきゅうの看板と白にゃんこくん』 『勇者の木剣と賢者のやつで盾、ドラゴンがいる公園』 一角目がとんから始まる丁寧な字で書かれていたのは、今日二人で見た景色。冒険してきた二人の道のりだった。 「これ……もしかして、幸せ貯金?」 「うん。冒険を始めてからずっと集めてたんだ。最後にミクへサプライズで渡そうと思って。見えないように意地悪してごめんね」 もう一度メモに目を落とす。私が好きな黄色の折り紙だ。 ハルカがやたら私に隠れて何かを書いていたのは、そういうことだったんだ。 「……小説、書いてたんじゃなかったの?」 「そっちも書いてたよ」
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