Episode.1

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「おれん家、このへん」 その声と共に、ふっと背中の重みが消えて軽くなる。荷台がもぞもぞと動く感覚にぎょっとする。 「ちょ、飛び降りないでよ!」 前を向いたまま、慌ててそいつの白いシャツを後ろ手に掴む。 ゆっくりと道の隅に自転車を止めてからシャツを離した。荷台の重みがなくなった瞬間、少し自転車が揺れる。 「うん、ここからなら分かるよ」 「ここからならてか……もう目の前じゃん」 クリーム色の煉瓦の家を指さしてあきれ気味に言った。 「ああ、うん」 家を見上げながら曖昧に笑ったそいつ。変な奴、と眉を顰めた。 「送ってくれて、どうもありがとう。でも急いでたんだよね。ごめんね」 最後にちょっと申し訳なさそうな顔をしたそいつに「は?」と聞き返す。 「だって初めて会ったとき、急いで走ってるみたいな顔だったから」 目を見開く。言葉に詰まった。 意味がわからない。そもそも急いでなんかないし、何なら機嫌よく本屋から出てきたところだった。 それなのになぜか胸の内側を暴かれたような、無性に逃げたい気持ちになる。 「別に」と目を逸らして急いで自転車に跨った。ハルカが一歩前に出た。 「おれ、ハルカ。遥か彼方の“ハルカ”」 「遥か彼方のハルカ……」 「うん。君の名前は? おれに教えてよ」 そいつ────ハルカは私に向かって手を差し出した。 「……未来」 「ミク?」 「うん、そう。未来のミク。じゃあもう行くから」
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