Episode.3

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店でこれを見た時の私と同じことを考えている。 それがちょっと嬉しくて、嬉しくなった自分が悔しい。 楽しげに笑ったハルカはしばらく間を置いて「ちょっと待ってて」と顔を部屋の中に引っ込める。 数分もしないうちに玄関の扉がゆっくりと開き、ハルカがひょこっと顔を出す。 「ねぇねぇ、ひとつお願いしてもいい?」 もしかしたらそう来るかもと思って、ちょっとにやけそうになるのをグッと堪えた。 「聞いてやらんこともない」 ハルカがワクワクした顔で身を乗り出した。 「後ろ乗せて」 やっぱりな、と心の中でほくそ笑んだ。絶対にハルカならそう言うと思っていた。 「……今日だけだから。特別」 やった、と嬉しそうに声をあげたハルカが後ろに回る。座ろうとしたハルカに、前かごに入れていた荷物の存在を思い出し「あ」と声を上げる。 「ハルカ、ちょっと待って」 「どうしたの?」 「いいから」 前かごに入れていた袋を取り出す。 ついさっきショッピングモールの百均で買ったばかりの茶色い座布団。安かったから少しペラペラしているが、ないよりはマシだろう。 適当に荷台に括り付けて、ハルカと目が合う前に「ん」と座るように促した。 「わあ、これお馬さんの座るとこみたい」 嬉しそうに座布団をぽんぽんと叩く音がして、緩みそうになる頬をぐっと我慢して仏頂面を作る。
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