Episode.3

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「別に、アンタのためじゃないから。荷物が傷付かないように付けたんだからね」 「うん、嬉しい。ふわふわ」 話を聞いているのか聞いていないのか、楽しげにそう言ったハルカは荷台に座る。 それを確認してから、私は地面を強く蹴った。新しい自転車は軋むことなく加速する。二人分の重さなんて感じないくらい、風を切りどんどん進む。 思えば帰り道じゃない二人乗りはこれが初めてだった。 「すごいねミク、風より早いよ」 興奮気味にそう言ったハルカに溜息を吐く。 「そんなわけないでしょ」 「だってほら、落ち葉を追い越した」 頑張れミク、と楽しそうに声をあげるハルカ。 ぐっと腰を上げて立ちあがる。すべての体重をかけてペダルを踏めば、ぐうんと自転車は前に出た。風に髪が靡く。 目を細めてうんと背筋を伸ばした。 「──新しい自転車が前に進む音」 唐突にそう言って私の背中に体重をかけてきたハルカ。背中で押し返しながら「何急に」と怪訝な顔を浮かべる。 「好きなものしりとりだよ。ミク、知らないの?」 「聞いたことないし」 「好きなものだけを言うしりとりだよ。ほらミク、次は『と』だよ、『と』」 はやくはやく、と鼻歌を歌いながら急かしてくるハルカに顔を顰めながら、数十秒考えて「鶏の唐揚げ」と返した。 「鶏の唐揚げ、おれも好き。あつあつのが美味しいね。……鶏の唐揚げ、げ、げ。玄関を出たときのお花の香り」 「りんご」
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