Episode.6

7/15

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
ハルカが私の膝の上に千切れた紙切れを置いた。 指でつまんで目を細め月に透かす。 「……黒猫が横切るのは縁起が悪い事なんですけど」 「ありゃりゃ。でも、まあいいじゃん。にゃんこ君は可愛かったし」 のほほんと笑ったハルカ、続けざまに「ミクは、今日何かいいことあった?」と聞いてくる。膝に顎を乗せて暫く黙り込み、小さな声で答えた。 「……誕生日探し、楽しかった。唐揚げ、もらえた」 「唐揚げ嬉しかったよね。幸せいっぱいお腹もいっぱい」 ハルカは紙に『おばちゃんに唐揚げもらった』と書き込む。 「……ねえ、私の好きな色、黄色なんですけど。なんで鉛筆で書いてんのよ」 「だって、今はこれしかないし」 「好きな色のペンで好きな色の紙に書くって言ったのは、どこのどいつよ」 そう抗議すると、「わがまま言わないの」と私を窘める。頬を膨らますハルカを無視して、膝に顔を埋めた。 「お母さんがね、再婚するかもしれないの」 すんなりと言葉が出てきて、ハルカは「うん」と頷く。 「お父さんが死んで四年経ったの。私もね、一応心の整理はついたんだ」 「うん」 「でもさ、整理はできてもさ、追いつくのは精一杯なの。お父さんのいない毎日が始まって、お母さんと二人きりの日々が過ぎていって、これまで当たり前だった景色がどんどん変わっていくの」 「うん」 ハルカが私の手をぎゅっと握った。縋るようにその手を握り返す。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加