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「あだ名、つけてください!」
「……へ?あだ名?」
突拍子のないことを言うあたしに面食らった顔をする彼。
「はい!あたしこれといったあだ名がなくて」
「まぁ、俺もないわ。名前、歌ちゃんだっけ?」
「はい!」
自分のサインの横に「歌ちゃんへ」ってスラスラと黒いサインペンでかいていく。
「そうだなぁ……うーちゃん。ってマジでセンスなくてごめん」
自分で言ったあと、恥ずかしそうにクシャッと笑う。
「うーちゃん!ありがとうございます!」
「それでいいんかよ」
「はい!でも、伊倉選手限定です!」
「俺に呼ばれるあだ名だったん」
彼は可笑しそうに笑ってあたしへ色紙を渡す。
「伊倉選手はあだ名ないんですよね」
「そうだね。あ、家族とか親友だけアオって呼ぶかな」
「……アオ」
「だめだよ、大切な人にしかよばれたくないからね。じゃ、また応援きてね」
終わりの時間になって、バイバイとあたしに手をふる。
「大切な人」と言葉にした伊倉選手はとても優しい顔をしていて、なぜだが胸がぎゅっとなった。
ただファンと選手で今日が初対面みたいなもんだし、今日の夜には顔も忘れられてるだろう。
そんなあたしがそんな風に呼ぶことができるわけもないのに、自分もあんな顔で思い出してもらいたいなんて思っちゃうなんておこがまし過ぎる。
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