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「頼むからあたしの前で終わったりしないでねー」
祈りながら順番を待っていると「あ、竹田くんきてる」と紫織ちゃんの言葉に顔を上げる。
このままだと本当にあたしの前で伊倉くんが終わるような気がする。
「うー、お願いしますー」とハラハラしながら見守っていると次があたしというところで竹田くんが伊倉くんの肩をポンっと叩く。
神様というものは無常だ。
もちろん竹田くんのサインが嬉しくないわけじゃない。
でも、せっかくここまで来て目の前で終わるなんて泣きたくなるのも当然だ。泣いてないけど。
「あっ、竹田待って。あとひとり」
そんなあたしの心のうちを知ってか知らずか、前からそんな声が聞こえて「えっ」て声が出る。
「俺のファンだからさ、俺にさせて」
「そうなんだ。じゃあ、この子までね」
竹田くんがニコッと笑って、少し後ろに下がる。
「……え?え?」
何が起こったのかわからないのと、嬉しいのと、さっきまでの絶望感と全てが合わさって言葉にならない。
「どーした。なんで泣きそうになってんの」
「だ、だってえ……」
「竹田の方がよかった?」
「伊倉くんがいいにきまってる!」
いまだ理解が追いついてない頭で喋るからいつも敬語なのに、タメ口になるし。選手じゃなくて、くんになってるし。
だってこんなの聞いてないもん。
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