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「それはよかった」
あたしを見て笑って、そして用意されている色紙にサインを書いていく。
名前はもう聞かれなくても「うーちゃんへ」って書いてくれる。
この誰にも呼ばれたことのない、伊倉くんにつけてもらったあだ名。
それを彼が覚えてくれて、あたしを認識してくらて、それだけで胸がいっぱいになる。
「はい、どーぞってついに泣いてんじゃん」
サインを書き終えて顔を上げた伊倉くんがあたしの顔を見て「泣くほど嬉しいかー、そうかー」って満足気な顔をしている。
「こんなはずじゃなかったのに……ありがとう……あっありがとうございます!」
「わざわざ言い直さなくてもいいし、タメ口でいいから」
「そんな……尊敬に値する伊倉選手にタメ口なんてきけません!」
「はいはい。じゃあ、今日も俺のちゃんとピッチングみてってね。投げるかはわかんないけど、うーちゃん来てくれてるし投げたいね」
「伊倉選手が投げるの楽しみに待ってます!」
そうはなしてあたしの番はおわった。
去り際後ろを振り向いたら、もう竹田くんに変わってた。
本当に最後にあたしにサインするために残ってくれた事実が嬉しくてもらった色紙をぎゅっと抱きしめる。
「歌ちゃーん!よかったね!」
あたしの後ろだった紫織ちゃんが竹田くんのサインを手にして駆け寄ってくる。
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