狐瞬殺

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狐瞬殺

 その日の夜、怪しい霊気が、楊戩医院を包んでいた。  その場に降り立った女は、首の汗を拭きながら、夜風に当たっている男のうしろ姿を認めた。 「あん?おう。もう来たのか?お前」 「――紂――王――様?」  妖狐にして、稀代の悪女妲己は、かつての夫の姿を、杖突きのおっさんと重ねていた。  紂王じゃない。勘解由小路降魔さんだ俺は。  勘解由小路はそう言って、妲己を睥睨した。 「今日のホテルは、まあまあ素朴だったんでな?嫁さんと腰抜かすほど子作りしたんで、轟沈した嫁さん寝かせて夕涼みしてたんだが。アニメのラスボスだったお前がなあ、こんな場面で来るとは」 「魔上皇――勘解由小路降魔であるな?ならば、妾と同道せよ。女媧様のお呼びである」 「へーえ、そうかあ。だが断る」  な!妲己に驚愕があった。 「こ、この妾がついてこいと言っておるのだ!嫌がれば、炮烙を抱かしょうぞ!大人しくついて参れ!」 「人に、ちゃんとお願いする時は何て言う?もう殷はないぞ?炮烙に蠆盆?誰が作るんだ?」  ああああああああ!妲己は吠えた。  は! 「(チッ)!」  上空から振り下ろされた鞭の一撃を、妲己は宝貝で防いでいた。 「貴様は。また妾の前に現れるか?小僧」 「久しいのう。奸婦妲己。この局面で出てきたか」 「師叔!ようやく出番が!」 「楊戩までおるか。流石は女媧様。逐次投入の愚は犯さぬか」  ふわりと、妲己の羽衣が揺らめいた。 「へえ。これが傾世元禳(けいせいげんじょう)か。やっぱり持ってんだな?」  更に、周囲が炎に包まれた。 「これが最後じゃ。妾についてこい」 「五火神焔扇(ごかしんえんせん)か。確か陽任(ようにん)が持ってた宝貝じゃなかったっけ?まあいいや。妲己、さっさと投降しろ。今ここで死んでも、お前が封神されることはない。大体お前、紂王と大人しく寝ていたかったんじゃないか?」  妲己の腹の内を見透かされ、カアと血が登った。 「だ、黙れ!妾に逆らうなら、それ相応の最期を遂げよ!傾世元禳よ!」  傾世元禳が、淡く発光振動した。  操られた味方が、宝貝を持って現れていた。
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