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妲己三姉妹消滅
妲己が砂塵と消え、女媧がベッドで悶絶していた頃、残された妹の王貴人、胡喜媚の、妲己の妹達は、女媧への恨みを醸造させていた。
姉様は、実は静かに死にたかったのだ。
紂王と、静かに眠っていたかっただけなのに。
そもそも、前世で起きた禍事は、妲己達の行動にあったのは、間違いなかった。
確かに、我々はやりすぎたのだ。悪戯に流血を望み、妖魅の衝動のままに奔走し、女媧の怒りを買って、諸共首を刎ねられたのだ。
今でも思い出す。縛妖索に縛られた感触。
身動きもとれぬままに、斬首された痛みと苦しみ。
ただ、そもそもが、我々は女媧に遣わされて殷に赴いたのに。
我等が暴走した途端、掌を返すが無体、到底捨て置けぬ。
王貴人は、視線を妹に向けた。
胡喜媚は、無言で頷いた。
確かに、女媧は恐ろしい女神である。
天地創造神の名に恥じぬ妖力を持つが、今は現世にあり、七魄揃ったただの若いババアにすぎない。
倒せぬ道理はない。
ついに意は決した。王貴人は、手下を伴い、女媧の寝所を襲撃した。
「女媧様!女媧様はいずこにおわすか?!」
「ああああああああああああああああああああああああ!しゅてきしゅぎりゅううううううううう!しゅき!大しゅきじゃあああああああああああああああああああ!妾の小部屋は、熱く滾っておるわえ!」
女媧の醜態は続いていた。
イッラア。
王貴人は、マジでムカついていた。
姉様は今頃戦っているのに、このザマは何よ。このヒス蛇ババアが。
「何の用か?!出て行きやれ!妾と旦那しゃまのランデブーを邪魔するでない!金物がガチャガチャとやかましい!妾を誅するか!この埒外者共め!口上くらい述べるがよい!」
「天は既に蒼し、奸蛇天墜の時は来た!悪戯に仙界を乱し、人界を荒廃せん貴様の振る舞い、最早看過出来ぬ!女媧よ!その邪悪な七魄を引き裂かん!而して天に帰れ!奸婦に死を!大人しく首を晒せ!」
「ふん。妾を討つというのか?確かに蒼天は地に伏した。今は桃色に染まっておる故。桃色に染まった天を見つめている内に、妾は気付いたのだ。この世には、ラブが溢れていると」
女媧は、ベッドから体を捻って上体を起こした。
悍ましいほどの、美しさだった。
「周りがイチャイチャチュッチュしておるなら、妾もするのが道理であろう。もはや、妾を止める者はおらぬ。妾はどこまでもラブを追求するのだ」
愛 至上なり。そんな文字を背負っていた。
「妲己姉様は!そんなことでこの世に蘇ったというのか?!確かに姉様は、奸婦の誹りを受けた!貴様の手で殺された!紂王と、仲よく眠っていたかっただけなのに!」
それじゃ!女媧はびしっと王貴人を指差した。
「妾を差し置いて、ラブに溺れる妲己許すまじ!妾は輝きたいのじゃ!現世に萌えたいのじゃ!それ以外は望まぬ!神界や仙界の男共は、どいつも妾を差し置いて、意識高い系のロクでもない草食系の枯れ切った童貞ばかりじゃ!妾は、何もかも忘れて熱くなりたいのじゃ!邪魔する者は容赦せぬ!」
何が萌えだこのババア。どこまで自分本位か。
「言い残す言葉はこれだけか?!ならば死ね!この斬妖剣のサビに消えろ!お覚悟召されい!」
「ふふん。妾を斬るか。やってみよ。雑兵諸共死ね」
十数人いた手下達は、たちどころに血水と化して消えた。
「こ、これは!」
王貴人は周囲を見回した。兵達は揃って血と化し、血塗れの兵具だけが残っていた。
「ね、姉様。ごめんなさい」
胡喜媚も、血溜まりとなって消滅していた。
「胡喜媚?!いやあああああああああああああ!」
悲鳴を上げた王貴人は、憎悪に満ちた視線を、女媧に向けていた。
「おのれえええええええええ!何をした?!女媧あああああああ?!」
「既に、お前は入っておるのよ。その空間に。全てが血水となる。妾が忠実な部下が敷いた、紅水陣にの。そうであろう?ウェイトリーよ」
「紅水陣。まさか」
「まあ、女媧様の命令には逆らえませんからね?王貴人、まだ間に合いますよ?どうせ妲己は、勘解由小路さんに斬獲されてるでしょうし。第二波を率いて特攻させられるでしょうが、ちゃんと謝ってくださいよ。そうでしょう?」
「おのれ。おのれおのれえええええええええええええええええええええええ!」
女媧に飛びかかろうとした王貴人の胸に、火尖狙撃槍の熱線が貫いた。
「がふ。お姉様。申し訳ありませ――」
一瞬で、多くの仙道を殺傷した、ウェイトリー・猫の姿があった。
「ねえ女媧様?何で、その男のことを知ったんです?っていうかその写真」
「うぬ?ああそうじゃ。羅吽とかいう酒屋が置いてったものじゃ。たちまち、妾の魂は重力を振り切り、今は銀河をたゆとうておるのじゃ。ああ堪らん!ペロペロさせてくりゃれえええええええええええええ!」
ああ。やっぱり羅吽か。あっという間に崑崙落としたものなあ。
まあ、女媧からすれば酒屋にすぎないけれど。
「ねえ女媧様。小鳥師叔なんですが、未だに社稷図の中を逃げ回ってるんですけど」
「そんなものは知らぬ!十二大師に任せておる!その程度のことで、妾と旦那しゃまのラブを邪魔するでない!きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
と、ヒステリーを起こす女媧を、ウェイトリーはぼんやりした目で見つめていた。
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