黄河クルーズ船に乗って

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黄河クルーズ船に乗って

 先日の野池の時のとは打って変わって、えらい豪華なクルーザーが、黄河流域を延々と登っていっていた。  男はここな?うわああい!真琴はこっちだぞー♡  とか馬鹿野郎はホントに。  これって雑魚寝スペースだよな?って言う男用スペースに転がった俺は、えらいイライラしていた。 「あああああああああ!うるさい!のべつ幕なしにあいつイチャイチャしてやがってえええええええええ!何が男部屋だ!甲板隅に雑魚寝じゃねえか!お前はいいのか?!伏羲!影山さんよ?!」  甲板中央の豪華な船室では、嫁のヒイヒイ声が死ぬほどうるさかった。 「ベッドなどない方がいい。俺には合わん。硬い床に、それを覆う段ボールでもいい。と言うか、暗い素焼きのシェルターがいいと、お嬢様には願い出ている。出来れば日中は、シェルターの中で寝ていたいんだが」 「お前あれか?!飼われてる夜行性のヤモリか何かか?!」 「まあ、出来れば私もそれでいいですよ。人1人潜り込める木のウロか何かがあれば最高です。女禍――妻はそういうのが嫌なんだそうで、ずっと夫婦別室生活でした」 「ああああああああああああああああ!どいつもこいつも!爬虫類と同等ってか俺は?!憎い!あいつが憎い!そう言えば、あの女子高生はどこ行った?女性用だって部屋用意されてたんだっけな。あいつの隣の。俺なら刃物持って突入してる」  ちょうど、ボコボコにされた静也が、甲板に投げ捨てられていた。 「百済からの訪日を想起し、甲板上で風を感じていたらこれだ。いい加減諦めたらどうだ?」  呆れた温羅(うら)の言葉に、早くも傷が回復した静也は言った。 「いや。俺は諦めたりしない。今月はまだ始まったばかりだ。きっとノリリンを妊娠させてみせる。俺のオス犬ちゃんは、最早チワワなどではなく、ドーベルマンと化している。まあ紀子に特別な感情はないんだが」  あるじゃねえか。この真っ直ぐな童貞は。  いい年して、俺も似たり寄ったりだがよ。  ところで、俺は、何となくあの野郎の魂胆が読めていた。  素人に毛が生えた程度だが、まあガキの頃から、妙な現象が身近にあったし。  ガキの頃だが、たまにあいつ、正男のお漏らし事件とか言ってたよな?  お漏らしはしてねえよだから!おばさんの頭蓋骨に噛み付かれて気絶したけどよ!  あいつと切れて、そう言うのはなくなったんだが、今度は明美が家に住み着いてたりした。  自殺した霊な?たまーにシャワー浴びてたりしてたんだ。  まあ、田所ちゃんに消されたけどよ?  つまり、俺は経験上素人じゃねえって話で、今は俺の周りの連中が何かを、ずっと考えていた。  温羅はまあ俺と同じ身の上だ。人化オーガだ。厳密に言うとちょっと違うっぽいが。  静也は、人間と妖魅の交じり者だ。昔は、こういうのいっぱいいたんだろうな。  影山さん?あいつヤモリかトカゲな?夜行性だからヤモリか?  こいつ、多分4/1は人間だから、多分妖魅で合ってるだろう。  で、こいつだ。  俺は、伏羲を見て言った。 「伏羲様よ。あんたの嫁は、何企んでんだ?どうせ、勘解由小路の奴が滅茶苦茶にしちまうんだろうが。ちょうど携帯で調べたら、あんた女禍と対なんだって?俺も、神様と雑魚寝ってのは初めての経験だけどよ。で、もうちょっとこう、俺達を楽にする神様的な力ってねえの?ビフレスト発動させるとかよ?」 「それは無理ですよ。今の私は、大したことが出来ません。七魄(しちはく)揃った人間と、ほぼ一緒です。女禍だって同様です。封神されてしまえば別でしょうが。光の柱で惑星間ワープなんて、とてもとても」  伏羲がビフレスト知ってることが、何よりの驚きだった。  あー。可愛いぞ♡真琴♡ラブ母ちゃん♡  おっぱいに顔を埋めて、勘解由小路が言った。  船室の中では、ケニー・バレルのマイ・シップの穏やかなサウンドスケープで満たされ、田所を求めて夜泣きしていた緑は、クークーと寝息を立てていた。  ちょっと奪精され疲れた勘解由小路は、仰向けにベッドに転がっていて、真琴は、幸せそうに勘解由小路の胸を枕にして、心臓の鼓動に浸っていた。 「ああ、そうだ。まあ伏羲な。あいつは間違いなく神だが、前に会ったロキなんかとは、確かに少し事情が違う」 「ロキ――あの教授ですね?」  真琴の中では、碧が生後2ヶ月の頃にあった、クイーン・エーゲ号の思い出があった。 「うん。まああの屁こきロークだよ。七魄揃ってるからか、人間界に干渉する以上、大したことは出来んな。精々、その辺の仙道と変らんようだぞ?ってことは、小鳥遊とかと同じだ。真琴の邪眼でイチコロだ。うん。ああ上目遣いで、俺の胸板ペロペロしてるのは凄く嬉しいぞ♡5人目作っちゃおうか?また」  はい♡そう言った真琴は、チャイナドレスの裾を捲り上げた。 「あああ♡アリスちゃんこんばんはー♡よいしょ♡」 「ンキュウウウウ♡あん♡あん♡」 「チャイナドレスのエッチなところはこれだ♡裾捲り上げてジュブジュブすると、ぴったり気味のおっぱいがプルプル揺れる♡ああスラーイド♡」  またおっ始めた昏君(バカ)の姿があった。  あー。うるさいわね。静也は襲ってくるし。  これ以上ないほどボコボコにしたけど、どうせもう治ってるって、怖いわね。うちの式神なんだけどあいつ。  大体、伏犠連れて崑崙山?正気?  私、あの本ちゃんと読んでないのよね?登場人物多すぎるし。  ああああ!ホントにうるさい!包丁はどこだ?!あいつ等の腹をえぐる包丁は?!  イライラしていると、突如船体が裂け、濁った黄河の水が流れ込んできた。  飛び込んできた、静也の力強い腕に抱えられた紀子は、水面に顔を出し、それを見た。  大きな月が、汚染された空気を、裂くように浮かんでいる。  霞んだ闇の中に、水面に立つ4つの人影を認めた。  水に浮かんだままで、静也は言った。 「風を使えば、俺も水面に立てるのか?ホバークラフトみたいに」  あ。水面に、勘解由小路が翼を広げ、ふわりと降り立った。  え?どうやったの? 「ああ。お前等が魔家四将か。ところで、再生怪人は弱いのが通説って、知ってるのか?」  あ。宝貝(パオペイ)だ。魔家四将の宝貝を出してる。 ごめん、漫画で1回読んだだけで、青雲剣(せいうんけん)混元傘(こんげんさん)黒琵琶(くろびわ)花狐貂(かこてん)という宝貝が、太公望を苦しめたのよね。  勝てるの?うちのメンツが、宝貝持った仙道相手に。 「ああ田所。そこ立てるぞ?狐池さんの固定だ。好きに立ち上がれ」  おっさん、大丈夫なの? 「ああ、ところで、子作りの邪魔されたんで、うちの母ちゃんがめっちゃ怒ってるんだが。俺が抱いた緑は寝てるけど。グースカ」  う?紀子は呻いてそれを見た。沈みかけた船の屋根の突端に、すらりと立った毒蛇姫の姿を。  チャイナドレスの裾がゆらめいて、エロ妻、いや、怒り心頭の毒蛇姫が、モノクルに指をかけていた。 「許しません。カッコいい降魔さんと、5人目を作ろうとしていたのに。これで、子供が出来なければ、貴方方の所為ですよ?」  流石にそれは、言いがかりだとは思った。 「ああ、正男以下、伏犠もサルベージが完了した。じゃあな?お前等。ああ真琴、俺の指示通りに、お願い」  ああ、おっさんビビってるわね。流石に。  真琴が、モノクルを外し、闇の中に、金色の蛇紋が揺らめいた。
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