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演義の幕は開く
黄河水面の戦いは、約13秒で決していた。
「よくやったぞ真琴♡よしよし♡」
頭を撫でられ、凄く嬉しそうな、毒蛇姫がお代わりを望んでいた。
魔家四将の一人である魔礼寿の宝貝、花狐貂に乗って、おっさん達はふよふよ飛んで、夜のクルージングを再開させていた。
花狐貂の端っこには、ボコボコに殴られた魔礼寿が縛り上げられていた。
ところで、魔礼青の青雲剣は温羅が、魔礼紅の混元傘は正男が、魔礼海の黒琵琶は、無難に伏羲の手に渡っていた。
「あれだな?一瞬で砂になっちまった連中の装備かっぱぐってのは、どうなんだ?」
「RPGの基本だろうに、影山さんはアルコルがあるしなあ。出来いれば、アクアハンマー持たせたいんだが」
「済まない魔上皇。アルコルは俺の分身だ」
「おい勘解由小路!混元傘だっけ?!持ってるだけで凄え疲れるんだけどよ!」
「まあ、正男はしばらく持ってろ。慣れれば気にもならん。魔家四将だっけ?装備かっぱらうのにうってつけの奴だったな」
言ってること、ほぼ山賊よ?
「鬼哭先生。まあ、これが世に言う勘解由小路劇場よ。さっさと慣れなさい。色々。ああ、それにしても、喉が渇いたわね?黄河の水なんか飲んだら死ぬし」
「流石にそこまで汚染されてないと思うが。黄河をずっと上ってきたはずで、バヤンカラ山脈の近くまで来ているし」
「うっさい。中国の水は汚れてんのよ。汚染水って奴だ。トリチウムとセシウムだらけだぞ?」
反共なのはいいが、どうにも偏見がすぎると、静也は思っていた。
「では、これなどどうでしょう?仙桃で清めたお酒です。妊婦が飲んでも大丈夫ですけど。あ」
奪い取った真琴さんが、紀子より先に飲み干していた。
「あら。美味しいですね?もっとありますか?」
「ええまあ、ありますけど」
「降魔さん降魔さん♡美味しいお酒ですよ♡?」
「まあ一杯貰おう。ふうん。緑が飲めそうだぞ?これなら」
「いや、赤ん坊にはやめた方が」
とか伏羲が言っていると、確かに、月明かりに照らされた、バヤンカラ山脈の稜線がボンヤリ見えていた。
「いや、よく考えるとだな?崑崙山ってのがどこにあるか解らんので、まあ黄河を上ってみたんだが。そろそろ、知ってる奴の1人か2人でてきてくれると。あん?」
川に、大きな石があった。
石の上に、中国服を着た、妙な男が仰向けに寝っ転がっている。
花狐貂が、ゆっくり近付いていった。
「うん?ああ花狐貂か。懐かしいのう?」
男は、奇妙な魅力を放っていた。
多分、見た目の年齢は20代前半くらいか、白いスカーフを被り、腰に妙な棒を差していた。
男を、興味深そうに見つめている勘解由小路と、寝たまま見上げていた男。
紀子は、妙な胸の高鳴りを感じていた。
男の足下には、スピニングリールと6フィートほどのロッドがあって、仕掛けの先に付けた玉浮きが、流されてロッドを引っ張っていた。
「ナイトバシングか?餌釣りはルアーじゃ邪道って、知ってるか?」
「あああ。別に、釣る気はないんだがのう?」
「釣る気ないなら、ちょっと聞いていいか?」
男は、ゆっくり起き上がった。
「今度は、大物が釣れたのかのう?」
これが、日本最強の魔上皇勘、解由小路降魔と、殷周革命を勝利に導いた、稀代の軍師呂望との、ファーストインプレッションだった。
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