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「婚約者はおりませんが、主君の奥様に焦がれるほどの度胸はありませんので……ぶふっ」
わかるのは、彼が割と本気で失礼だということと笑い上戸ということだけである。
“昨日も肩を震わせて笑っていたしね”
はぁ、と思わず半眼になった私を尻目にアルド殿下へと向き直った彼は、手元の書類をパラリと捲りながら口を開いた。
「明日はイースでの視察が入っております。王城にも近く安定した地域ですので五人ほどの護衛で問題ないでしょう」
「そうだな。という訳でベルモント卿、第一騎士団から五人ほど騎士を借りれるだろうか?」
「もちろんでございます、殿下」
“イースでの視察……”
そんな彼らの会話を聞きながら内容をこっそり頭に入れる。
視察への同行は妃の勤めのひとつだが、現状私は相変わらず名ばかりの妃で人質なのだ。
“もし私がひとりで王城や王子妃宮から無断で出れば脱走になるわよね”
外出許可が貰えれば話は別だが、アルド殿下に視察の同行を頼んでも私との接触を拒んでいる彼が許可をくれるとは思えない。
でも。
“一緒だったら公務じゃない?”
「相手が認知してるかは別として、ね」
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