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ふふ、と思わず笑いが込み上げる。
連れて行ってもらえないなら勝手について行ってしまえばいい。
どうせ今夜も彼は私の閨へは来ないだろう。
だが、それなら逆に準備をする時間もたっぷりあるということだ。
アルド殿下の明日の予定という思わぬ収穫を得た私は、この企みに気付かれないよう願いながら明日の護衛に選ばれなかった騎士たちに混ざり訓練場を走り始めたのだった。
◇◇◇
「なぁ、あいつはなんなんだ?」
「なんだ、とは?」
わかっているくせに全部言わせようとするのはダレアの昔からの癖である。
そんなある意味いつも通りの側近にため息を吐きながら、俺は更に口を開いた。
「……彼女のことだよ。何があんなに不満なんだ? というか何を考えてるんだか」
妻とは名ばかり、政略結婚といえばむしろまだ聞こえがいいと思うくらい完全なる人質としてやってきた隣国の王女。
実質は捕虜もいいところで、さぞかし怯えていることだろうと思っていた。
自分の境遇に絶望し命を絶たれでもしたら人質の意味はないし、むしろ死なれればこちらとしてもリヒテンベルンから糾弾されるだろう。
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